2024年のスポット展示
2024年(令和6年)
1~2月のテーマ『こんなモノをいただきました‐湯たんぽ・安全こたつ・豆炭あんか‐』
新たに当館にご寄贈いただいた資料を中心に、安眠のための道具を展示しています。
ヒトは、原始時代から、「火」を用いて暖を取り、調理をし、また、獣から身を守ってきました。人類の歴史上、「火」を自由に使いこなせるようになったことが、あまりにも大きな進歩であったことは言うまでもありません。ただし、「火」は、一歩間違えれば、大変危険な存在。眠るときには消すのがふつうでした。
格段と冷える冬の夜であっても、眠りながら暖を取り(かつ「安全」に!)、心地よく朝を迎えたい。電気のない時代、こうした人類の宿願をかなえるため、色いろ工夫が重ねられてきた暮らしの道具について、今回のスポット展示では注目してみました。
展示している道具は、市内で使用されていた新蔵品のブリキ製湯たんぽ(割竹型)を中心に、陶器製湯たんぽ(かまぼこ型)・豆炭あんか・安全こたつ(回転こたつ)です。
湯たんぽは、やかんなどで熱湯を注ぎ、それを熱源として一晩温まる道具で、今ごろのような寒い日の夜には欠かせない道具でした。日本では明治時代に一般家庭に普及し、大正時代には、扱いやすいブリキ製が登場します。
また、安全こたつは、就寝中、うっかり蹴ってしまったとしても、炭などの火気を入れる金属製の火入れが吊下げ式になっていて、自在に回転して常に上を向くため、炭火・灰がこぼれない仕掛けになっている優れものの発明品で、大正時代、全国的に普及しました。デザインも美しく、見ごたえがあります。
ぜひ、この機会に、展示をご覧いただき、“安眠のための道具”について知っていただけると幸いです!
3~4月のテーマ『こんなモノをいただきました‐おひなさん-御殿びな-』
3~4月期は、恒例のおひなさんの展示です。今年度も、市民の方よりご寄贈いただいた、立派な御殿びなを展示しています。
ご存じのように、3月3日のひなまつりでは、ひな人形を飾って女子の成長を祝いますが、このような行事を行なうようになったのは、江戸時代、今から400年ほど前のことです。ただし、いわゆる「ひな壇」に飾る形式はもっと後に江戸で生まれた風習で、関西では、むかしは京都御所をモチーフにした「御殿びな」の形式が主流でした。
展示している御殿びなは、戦前に京都で購入されたものであるとのことで、御殿、内裏びなのほかに、豪華でかつ繊細なひな道具もたくさん備えられていて、見ていて飽きることがありません。
また、今回は、飾って楽しむひな人形の源流である「流しびな」(「人形(ひとがた)」としてお祓(はら)いに用いる)もあわせて展示しています。引目・鉤鼻・おちょぼ口で丸顔の面貌は、ほほえましい感じがします。
ぜひ、この機会に、華麗なおひなさんをご覧いただくとともに、おひなさんの歴史について知っていただけると幸いです!
5~6月のテーマ『こんなモノをいただきました‐五月人形-』
5~6月期は、今月号 広報にも掲載された立派な五月人形を展示しています。
毎年5月5日、“端午の節句”に五月人形を出す風習は、江戸時代の武家で模造の武具類をかざって男の子の成長を祝ったことに始まるとされ、ひな人形の影響を受けて、やがてお人形をかざる人が出てきたようです。高度成長期には豪壮なものが好まれましたが、生活環境の変化で、近年はコンパクトなものが売れ筋とのことで、お人形は時代を映す鏡でもあるようです。
展示している五月人形は、市内の方がまさに高度成長期に購入され、長年、お家でかざられていたものです。
今回は、ほかに、明治時代のものとみられる鎧・かぶと(五月飾り用)や、金太郎・鯉・菖蒲という、端午の節句の3点セットを配する、珍しい五月人形もあわせて展示しています。金太郎は、1000年ほど前の藤原道長の時代に実在したとされる武者、坂田金時をモチーフにしており、五月人形の題材として一般的なものです。
元来、端午の節句は“菖蒲の節句”とも呼ばれる東アジア共通の祭日で、厄除けのため、菖蒲を刻んだものをお酒に入れて飲み、また、粽(ちまき)などのおもちを食べました。男の子の日とするのは日本独自の文化で、“菖蒲”と“勝負”をかけているようです。
ぜひ、この機会に、五月人形をご覧いただき、兵(つわもの)たちが活躍した平安時代の歴史、また節句の文化について知っていただけると幸いです!
7~8月のテーマ『こんなモノをいただきました‐送風する道具-』
7~8月期は、夏季企画展の内容に関連し、新たに寄贈を受けた「唐箕(とうみ)」と「箱ふいご」(猪名川町教育委員会 所蔵)を展示しています。
より少ない労力で「風を送る」ことは、人類の発明史の長い課題でした。例えば、稲作には、収穫したお米の不要な部分(わらくずなど)がお米より軽いことを利用し、風の力でそれを除去する行程があり、江戸時代、手回しファンを装備した唐箕が日本に普及し、作業の負担が減ります。展示している「唐箕」は、八尾市恩智の荻原家から新たに譲り受けたもので、「国分市場町」(現 本市国分市場)の職人 車屋重次郎が製作したものです。
また、鉄や金銀などの製錬・精錬(鉱石から有用金属を取出す行程)では、燃焼温度を高めるために「風を送る」必要があり、その道具として「ふいご」があります。展示している「箱ふいご」は、二層構造になっており、上層部のピストンを押し引きすることで(押したときも引いたときも)空気圧に変化が生じ、下層部の吐出口から風が吹き出す優れものの「機械」です。
ところで、現在開催中の夏季企画展では、約221mにおよぶ排水用トンネル 田輪樋の開削について触れています。江戸時代の鉱山やトンネル開削工事では、「ふいご」や「唐箕」が、坑内に新鮮な空気を送り込み、空気の循環を改善する現在でいうサーキュレーターのような用途で使用されていたことが確認され、史料上はみえませんが、その構造上、田輪樋の改修工事でも活用されていたことでしょう。人類史において、道具は当初の意図を超えて様ざまな分野に転用され、技術の革新・作業効率の上昇・労働環境の改善をもたらすことがありますが、「送風する道具」についても、それは同様だったのでしょう。
ぜひ、この機会に、大型の民具 2点を味わっていただけると幸いです!
9~10月のテーマ『こんなモノをいただきました‐酒造の道具・矢立-』
9~10月期は、新たに当館にご寄贈いただいた、酒造の道具・矢立(やだて)などを展示しています。なお、今回の展示は、9名の博物館実習生が担当しました。
1.まず、「柏原と酒造」のコーナーでは、現 柏原市古町の造り酒屋で使用されていた、酒樽や前掛け、暖気樽など、日本酒づくりでおなじみの道具を展示しています。通い徳利を酒屋さんに持っていって、陶器製の酒樽からその場所でつくられたお酒を注いでもらい、家に帰って呑む、というのは、今ではほとんど失われてしまった光景ですが、容器の節約にもなり、ある意味で「エコ」な暮らし方かもしれません。
2.次に、「矢立」は、聞きなれない道具ですが、筆、筆入れと墨汁をしみこませたものをセットにした道具で、万年筆や鉛筆がなかった時代、旅先や外で文字を書くのに使用した便利グッズです。やがて、こまかな細工を施した工芸品も現われました。今回は、江戸時代の旅人風のマネキンを横に置いて、矢立の「持ち方」も展示しています。
今年も、2つの新蔵資料にじっくり向き合って、学芸員の卵たちが、新しい感性で展示を構築してくれました。