線刻壁画

2017年2月7日

線刻壁画について

  石室などに絵画や彫刻を施した古墳(横穴を含む)を装飾古墳といい、全国で600基以上確認されています。装飾は、絵画で描いたもの(彩色)、線を刻んだもの(線刻)、レリーフのように浮き上がらせたもの(浮彫)に分けることができます。浮彫は特殊で九州中南部などにみられます。

 装飾古墳の半数以上が横穴で、装飾の方法としてもっとも多いのが線刻です。

高井田横穴群の線刻壁画

 高井田横穴群では、これまでに27基の横穴で線刻壁画が確認され、彩色や浮き彫りは確認されていません(ただし、横穴内部やその一部を赤色に塗ったものはみられます)。壁画の種類は、人物、馬、船、家、鳥、蓮の花、樹木、葉、そして記号のようなものなどさまざまです。

 凝灰岩は軟らかいため、釘のような先端の鋭い道具があれば、壁に刻むことができます。そのため落書きが多く、27基の線刻壁画がすべて古墳時代のものという確証はありません。ただ、古墳時代の人でないと描くことができないような、その時代のみに存在したもの、服装などを描いたものは当時の壁画で間違いないと考えられます。

3-5号横穴の線刻壁画

 高井田横穴群でもっとも有名な船に乗る人物の線刻壁画を含む壁画です。羨道両壁面には、多数の人物が描かれていますが、その中で、当初に描かれたのは右側壁の3体の人物でしょう。右上に著名な船に乗る人物が描かれています。船は両端が直角に反り上がっており、「ゴンドラ形」と表現されます。中心の人物は手に旗か槍のようなものを持っています。その両脇にはオールを持つ人物と、碇を持つ人物が小さく描かれています。その左の人物も、船に乗る人物と同じ人物を描いたものでしょう。長めの上着を腰で帯かベルトでしばり、太めのズボンは膝で絞っています。当時の人物埴輪と同じ服装を表現しており、古墳時代の壁画と考えて間違いないでしょう。その下の人物は袖幅の広い上着にひだのある裳(も)を着け、高松塚古墳の壁画女性に通じるものがあります。

船にのる人物船に乗る人物線画
3-5号横穴・船に乗る人物線刻壁画

3-5号壁画全体3-5壁画図
3-5号 羨道右側壁の線刻壁画

 これら3体から成る壁画は、被葬者の生前の活躍の姿という説もありますが、船に乗ってあの世へ旅立つ姿とそれを踊りながら見送る女性という解釈があたっているのではないでしょうか。

その他の線刻壁画

 武器や武器を持つ人は、死者の平安を脅かすものを威嚇するため、馬や船は、あの世への乗り物として描かれたのでしょうか。鳥も死者の魂を運ぶという説があります。家はあの世での生活の場を描いたのかもしれません。蓮の花は、仏教の影響が考えられます。

帆をはった船鳥壁画
2-12号横穴・帆を張った船(左)2-3号横穴・鳥(右)

家壁画
2-5号横穴・家

蓮華
3-7号横穴・蓮華

 しかし、樹木や葉、さらに記号のような直線や曲線はいったい何を表現したのかわかりません。このように、線刻壁画を読み解くことはとてもむずかしいのですが、古墳時代の人々が思い描いていた死者への祈りや、あの世での平和なくらしへの願いを感じられるのではないでしょうか。

葉壁画
3-10号横穴・葉

古墳時代の壁画か後世の落書きか?

  線刻壁画は、間違いなく古墳時代の人々が描いたものなのか。後の落書きではないのか。これは、線刻壁画を見学した多くの方から出される疑問であり、研究者の疑問でもあります。最近の落書きならば線が風化しておらず、すぐに区別できます。しかし、ある程度風化した線は、最近の落書きでないことは断定できても、それが果たして古墳時代に遡るものかどうかは明らかにできません。実際に以前から開口していた横穴に壁画が多く、調査によって新しく発見された横穴には壁画がほとんど見られません。それでは、古墳時代の線刻壁画と断定できるものはないのでしょうか。

 まず、古墳時代の人々でなければ描けないものを描いている壁画は、古墳時代のものと考えていいでしょう。3-5号横穴に描かれた人物は、古墳時代の人の服装をデフォルメしながらも忠実に描いています。これは当時の絵と思われます。

袖をふる女性
3-5号横穴・袖をふる女性

 しかし、3体の人物以外の壁画は、後に真似をして描いた可能性が考えられます。

 2-23・28号には、馬の尻部に旗が立てられています。旗の付け根は折れ曲がっており、これは古墳から出土する蛇行状(だこうじょう)鉄器とよばれるものを表現しています。

2-23馬壁画
2-23号壁画(右の馬に旗が立っています)

2-28号壁画図
2-28号壁画(旗の付け根が折れ曲がっています)

 3-13号横穴の靭(ゆき・矢を入れる道具)も、古墳時代の奴凧形(やっこだこがた)と呼ばれる靭を描いているので間違いないでしょう。


3-13号横穴・靭

 それ以外の壁画は、表現の仕方などによっ て、古墳時代の可能性の高いものとそうでないものとに分けることができます。たとえば、2-3号横穴の騎馬人物などは、古墳時代の可能性が高いと考えられますが、鼻や眉を描いた人の顔などは、その可能性が低いといえるでしょう。

騎馬人物
2-3号横穴・騎馬人物

 これらを区別していくことも、今後の大きな課題です。

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